幸福と不幸は同質のもの
幸福を得るために人は多くの不幸を産み出し続ける
産み出された不幸は積もって攻撃的な指向性を持つに至る
【ある幸福な人生を歩むもの】
この世界に産み落ちたときから、ワタシはずっと幸福だった
両親は優しく接してくれた
生活にも困らなかった
最高の環境で、最高の友人を持ち、最高の恋人を得て、何不自由なく生を謳歌する
それこそ、ワタシが死んでしまうまで
【ある不幸な人生を歩むもの】
ボクは世界を呪った
両親は酒と人に溺れ、ボクを顧みなかった
日々の生活の糧は自分でどうにかしなければならない
周りの視線に耐えかねて、ボクの居場所はなくなってしまった
なんでこうなってしまったんだろう
いいや、こうなってしまったのではなく
最初からこうだったのだ
【与えられた境遇を呪うもの】
憎い憎い憎い
なぜ、あいつだけが
なぜ、あいつらだけが
なぜ、ボクではない?
残された選択の中で選ぶはずの選択肢さえ、あいつらは奪っていった
いいや
あいつらも同じだ
自分が幸福であろうとするが故に、無意識のうちに周りを不幸にし続けている
この世界に不幸を撒き散らしているのは一握りの幸福なものたちだ
だから
あいつらは不幸にならなければならない
あいつらにとっての幸福が、誰かの不幸足り得るのなら
ボクにとっての幸福が、あいつらの不幸足り得るのだから
【********】
彼らは知っている
彼らにとっての幸せとは
彼らの近しいものの幸せとは
彼らと関わりの薄い
彼らと関わらない
大多数の不幸であることを
その事実を知ってはいけないことに
彼らもまた
他人と呼べる存在の不幸を糧にしなければ幸せ足り得ることはないのだから
彼らにとっての不幸とは
他人にとっての幸せ足り得ることを
重すぎた幸福を載せた天秤は
そう遠くない未来、傾いて崩れ落ちることに
彼らは気づいている
だから彼らは増長する
決して天秤を崩さないように
彼らが満ち足りた幸福の中にいようと
天秤を崩さないように、さらなる不幸を周囲に撒き散らし他者の不幸を求め続ける